いのししのひとりごと

ワタシノトリトメナイハナシ

「かがみの孤城」辻村深月

 

中学1年生の「こころ」は、学校でひどいいじめを受け、不登校になった。

家の中で、不安と恐怖にさいなまれながら過ごしていたある日

自分の部屋の鏡が突然輝き、こころは鏡のなかに吸い込まれるところから

物語は始まる。

 

鏡の中は、お城だった。

城の番人のようなオオカミのお面をつけた少女が

こころと同世代の子ども達を城に招待していた。

こころ、アキ、フウカ、マサムネ、スバル、ウレシノ、リオンの7人。

リオン以外は、みんな不登校状態にあった。

 

ここまで読んで、この本を

思春期の子供たちに向けたいじめや不登校の問題をテーマとした本だと

思い込んだとしたら、著者の思うつぼかもしれない。

ここから始まる物語に、読者は翻弄されっぱなしになる。

物語の随所に伏線がいくつも張り巡らされているのに

物語の面白さに引き込まれ、孤城の7人の心情に共感するあまり

その伏線をいくつもいくつも見逃してしまう。

 

物語のラストに向かっていく疾走感の中で

彼らの過去、彼らの抱える問題が明らかになっていくさまを描いた

シーンは、読者をくぎ付けにする。

そして、最後に、彼らの関係性が分かったとき、この本の壮大なテーマに気づく。

 

いじめや不登校などの現実問題を

時空を超えるというファンタジーに紛れ込ませながら

最後にこのファンタジーから抜け出した時

時空を超えることは、ファンタジーなどではなく

人間が生きることそのものなのだと感じる。

本の帯に書かれていた通り「問答無用の著者最高傑作」だった。