いのししのひとりごと

ワタシノトリトメナイハナシ

「きっと君は泣く」山本文緒

 

23歳の桐島椿は、派遣のコンパニオンとして働いている。

祖母譲りの美貌で、常に男性にちやほやされ

会社経営する父の財産で、お金にも困ることなく

勝手気ままな生活を送っていた。

椿には、つきあっている男性もボーイフレンドもたくさんいたが

中学時代の彼 群贅(グンゼ)との奇妙な関係がずっと続いていた。

そして、そのグンゼも椿同様、自分のルックスを武器に

奔放な性生活を送っていた。

 

物語は、そんな椿が大好きで尊敬していた祖母  牡丹の

入院とボケの兆候から始まる。

美を信じていた椿の前で祖母の美は、あっけなく取り払われる。

さらには、彼女の気ままな生活を支えていた父親の財産は

父親の病気と会社の倒産であっけなく失われる。

それでも、椿は、自分勝手な手っ取り早い幸せを望み

祖母の入院先の研修医である中原に結婚をせがむが

脈がないと感じると過去つきあった男性に手あたり次第に

結婚をせがむが、すべて断られてしまう。。

そうして、椿は、、、

 

恵まれた容姿と財産を持った椿とグンゼと対照的に描かれているのは

研修医の中原と中学時代の同級生で看護師の魚住。この二人は

物語の核心的存在となっている。

 

生半可な生き方をする椿だが、状況の変化によって

彼女は自身の過去、椿の父母の過去、そして椿の愛する祖母の過去と

否が応でも向き合わざるをえなくなる。

 

椿の中の邪悪さ、怠惰さ、横柄さ、滑稽さ、そして哀しさを

忌避しながら、それでも共感してしまう。

 

本著は「書き下ろしハード・ラブストーリー」どおり

物語は、壮絶なラストで終わる。

「きっと君は泣く」の

「君」と「泣く」の意味がぐるぐると頭を回る。