いのししのひとりごと

ワタシノトリトメナイハナシ

きんかん

数年前、母が作ったお弁当に
橙色のみずみずしい「きんかん」がひとつ
ぽつんとたたずんでいた。

そのとき私は、30代後半。
それまで、きんかんを口にしたことがなかった。
きんかん酒や甘い砂糖漬けのイメージしかなかったためだ。
フレッシュなきんかんを口にできることさえも
想像したことがなかった。
それまでの私の食生活は
きんかんとは一切無縁だった。

お弁当に入ったそのきんかんを
口に入れた。
皮も実も種も一緒に
がじりと噛み砕いた。
酸味と甘さと渋さが入り交じった
フレッシュな味に
私は一口でとりこになった。

きんかんが食べたい!!
散歩途中の家々の庭に
時々きんかんの木を見つける。
びっしり実ったきんかんに
思わず手が出そうになる。
おっと、いけない、いけない。

それまではきんかんを見向きもしなかったので
気づかなかったけれど
きんかんってスーパーに売ってあるんですね。
きれいにパックされた物は
ちょっと高いので手が出ないけれど
生産者直売コーナーでは
見栄えはよくないけれどフレッシュな
きんかんが一袋100円ほどで売ってある。
それを見つけると
鏡がなくとも
満面の笑みを浮かべている自分が見える。
抱きしめるようにして、買い上げ
早速私のおやつとなる。
子どもたちが、好んで食べる物でもなく
堂々とテーブルにおいたきんかんを
独り占めできるのだ。

そして、とうとう、夫に頼んで
先日、庭にきんかんの木を植えてもらった。
5年物の木には、ちらほらと
実がついている。
あーー、早く、早く実がつかないかなあと
ながめる毎日である。