いのししのひとりごと

ワタシノトリトメナイハナシ

追いかけてくるもの

私の母は、よくこう言っていた。
「嫌なことから逃げてはいけない。逃げればいつまでも追いかけられる」

母が言うその追いかけてくるものは
逃げ出したその自分にとって嫌なことそのものだと思っていた。
逃げ出しても、またその嫌なことが自分に降りかかってくるのだと。
だからそこを乗り越えなければならないのだと。
母はそう言っているのだろうとずっと思っていた。

私は嫌なことから逃げ出したことが何度もある。
逃げ出したその後、逃げ出したその嫌なことが
追いかけてきたことは、実はあまりなかったかもしれない。
逃げ出したら、もうそれで最後ということの方が多かった気がする。

実際に自分を追いかけてきたものは、そのとき逃げ出した自分だった。
おまえは逃げた人間なのだと
自分自身が追いかけてくる。
自分の心が追いかけてくるほど厄介なものはない。

母がなぜしつこく言っていたのか、今さらながらによく分かる。