いのししのひとりごと

ワタシノトリトメナイハナシ

「恋愛中毒」山本文緒

 

物語は、元カノのストーカーまがいの行為に悩む井口の語りで始まる。

井口は、元カノの追撃から逃れるべく、夜逃げ同然で転職した。

転職先の職場には、パートの中年女性「水無月」がいた。

水無月は、地味だが、どこか怖い雰囲気をもつ女性で

社長の荻原と不倫関係の噂もあった。

元カノからの電話や訪問にびくびくしながら暮らす日々を送っていた井口だが

ある日、井口の職場に突然やってきた元カノを

水無月が追い返す。

 

そして、この物語が、井口から水無月の過去の回想へと移っていく。

 

学生結婚をした藤谷と離婚をしたばかりの水無月は、父親のつてで

弁当屋で働いている。

ある日小説家「創路功二郎」が客として店に現れる。

創路の大ファンだった水無月は、創路の家が近所にあることを知り

彼の家を探すべく散歩に出かけたその日に

彼の愛人になってしまう。

 

最初の頃は、創路のそばにいられる幸せを感じていた水無月だったが

創路には、水無月のほかに何人も愛人がいること、若い妻がいること

別れた妻との間に娘がいること知っていく。

創路を独占したい気持ちを抑えきれない水無月

創路の周りの人間を排除する行為を徐々にエスカレートさせていく。

創路と過ごす日々を語りながら、水無月の回想は

彼女のさらなる過去の出来事とオーバーラップしていく。

 

恋愛をしている人なら

恋愛をしたことがある人なら

水無月の極端な行動を

他人事とは思えないはず。

ダメだとわかっていても、自分のためにならないと思っていても

やめることができないのが中毒だとするなら

恋愛は中毒性の高いものの一つに違いない。

 

確かに水無月の中毒性は、常軌を逸している。

けれど、そういう水無月と知りながら

彼女と関わる男性が3人登場する。

水無月と結婚し、そして離婚した藤谷、

過去に水無月と関係をもち、それでも友人であり続ける社長の萩原

水無月を面白がり、彼女の生き方に影響を与える創路。

この3人の男性の姿が、人間愛にあふれる著者の心模様のような気がしてならない。

 

物語は、最後は、皮肉とユーモアがない混ざる。

 

山本文緒は、やっぱり、すごい。