いのししのひとりごと

ワタシノトリトメナイハナシ

「命売ります」三島由紀夫

 

命売ります (ちくま文庫)

命売ります (ちくま文庫)

 

いわゆる普通の日常に価値を見出せなくなった時

人は、生きる意味を失う。

会社に勤め、家族を持ち、社会システムに組み込まれてしまうことが

人間が生きるということなのかという疑問は

多かれ少なかれ、誰しもの人生の中で一度は浮かんでくるものではないだろうか。

 

主人公は、この人間の営みに嫌気がさし、生きることをやめることにした。

そうして、自殺を図るものの、失敗してしまう。

生き残ってしまった彼は、自殺するのではなく、命を売ることにした。

 

命を売るという商売の中で

主人公はアングラと繋がってしまう。

しかし、そこで出会う女たちを愛し 愛されることで

命など惜しくないと思っていた彼は

いつしか生に執着することになっていく。

 

一見、ありがちな物語だが、そこは三島由紀夫だ。

先が見えそうで見えない、ストーリー展開と

深刻に捉えがちなテーマを、時に滑稽に笑いにするのは

三島の筆でしかありえない。

 

命に対して冷め切っていた主人公が

最後には、笑ってしまうほどかっこ悪くなる。

 

生きるということは、スマートでもなんでもない。

泥くさいことなのだ。

三島は、そう言いたかったのだろうか。