いのししのひとりごと

ワタシノトリトメナイハナシ

壁があってよかった

かれこれ、20年以上前

夫と二人、地元に新しくできた居酒屋に行ったときのこと。

案内された席に、ぎょっとした。

横並びに座る二人分の座席

その正面は、手をちょっと伸ばせば、すぐそこに、壁。

 

今では、この田舎町でも

カフェが増え、ひとり飯をする人も増え

壁に向かっての座席が、当たり前のように存在するようになった。

 

けど、当時は、喫茶店やレストラン、居酒屋と言えば

個室でもない限り、他のお客さんと空間を共有する場所

というイメージしかなかったワタシ。

 

狭いスペースに

夫と横に並んで、すべてに背を向け、壁に向かって座る。

奇妙な圧迫感で、はじめは、なかなか慣れず

店のチョイスを間違ったよ~と半泣きだったが

そのうち、とても居心地よく感じ始めた。

なんか、まるで、個室にいるみたい、、

 

両隣や後ろには、ほかのお客さんがいるのに

目の前が「壁」というだけで、その場所に

自分たちだけの時空間が出来上がる。

 

壁があってよかった、、

 

「壁」は、ふつう、あまりいい意味で用いられない。

 

すぐに思い出すのは、「ベルリンの壁」。

この場合、こちらとそちらの行き来を封じ、境界線をつくること。

あんまりいいイメージじゃない。

 

比喩的につかう「壁」には

「男女の壁」とか「言葉の壁」とか「記録の壁」とか。

「壁」が障害や障壁や乗り越えるべき対象のように表現される。

これも、マイナスイメージ。

 

世の中的には、「壁」は厄介者みたいだけど

壁がなきゃ、私たちは生きていけないし

壁があるから、生きていけるはず。

壁のいい部分にも、もっと目を向けようよ、、と思う。

 

室内と外を分ける

自分と他者を分けるために

壁は、絶対いる。

 

現実的侵襲を避けられることはもちろんのこと

たとえ、大勢の人がいる場所でも

壁がそこにあるだけで

自分だけの時間と空間を手に入れられる。

あの居酒屋の席でそのことを知って以来

ワタシは「壁」が大好きになった。

 

家を建てるとき

キッチンを

今やスタンダードな対面キッチンや

はやりのアイランドキッチンなどにせず

昔ながらの壁向きスタイルにした。

 

イライラしたり、落ち込んだり

ほんとうにもう!!と家族に腹を立てたり、、

そんなとき、家の中に家族がいても

壁向きのキッチンにたっていると

あっという間に一人になれる。

 

壁があって、ホントによかった。